正朝の笑止千万 その2 「付け人」か「付き人」か

※笑止千万:はなはだ気の毒なこと。また、たいそう笑うべきこと。広辞苑より

 

さて、間違った日本語を鋭く指弾する第2回目である。毎月一回更新しようと心に誓ったのに、第1回以来、早くも2カ月近くが経ってしまった。これは私が悪 いわけではない。すべては、私にとりついている「惑星からの物体X」の仕業である。このインベーダーはなかなか強力な侵入者で、私の中に元々寄生していた 怠け虫と同盟関係を結び、私に「休め!遊べ!怠けろ!」と絶えず攻撃を仕掛けてくるのである。この悪魔のささやきを振り切って仕事をするのは、至難のワザ だ。だが、この物体Xと戦っている我が体内防衛軍が、今回、少しだけ陣地を挽回してくれた。「砂漠の青い風作戦」と名付けられた今回のこの戦闘のおかげ で、ようやく・・・
言い訳はこれくらいにしよう。うっちゃっとくと言い訳だけで、ダラダラと一回分の文字数を消費してしまいそうだ。前回の予告で書いた「付け人」について書く。このネタは私の死んだ師匠・柳朝から聞いた話である。師匠曰く、
「相撲取りや芸能人の身の回りの世話をする若い者の事をよく『付け人』って言うだろう。あれは本当は『付き人』じゃなきゃ、いけねんだよ」と、生前何度も聞かされた。さらに、こう続く。

「『付け人』ってのはな、用心棒の事を言うんだ。『忠臣蔵』で吉良上野介の身辺警護をするのは清水一角だろう。ああいう職業の人を『付け人』って言うんだ。講談では『吉良の付け人、清水一角が・・・』って言ってるだろう。早い話がボディーガードの事なんだ。

身の回りの世話をやく人、例えば弟子とかボーヤとかの事は『付き人』って言うんだ。それを最近じゃNHKのアナウンサーまでが放送で『横綱の付け人が』なんて言うんだもんな。それじゃ『横綱の用心棒が』という意味になっちゃうんだ。全くいやになっちゃうよ」

私は「へえ、そうなんですか」と心の底から感心し、博識な師匠に尊敬の念を抱いたものだ。今回は、この事について書こうと思う。

しかし、これは天下のNHKスポーツ部を敵に回しかねない話である。間違いがあってはいけない。いくら師匠が言った事とは言え、間違いがないとは言い切れ ないのだ。仮に万が一こちらが間違っていた場合には、NHKから損害賠償の訴訟を起こされるかも知れないし、アナウンサーからは名誉毀損で訴えられるかも しれない。三大新聞に謝罪広告を出せという判決が下る可能性もある。私にはそんなお金はないのだ。正確を期すために私は、手元の国語辞典を調べてみた。当 然、師匠の説と同じ内容が書いてあると思いながらまずは「付け人」をひいてみると「監督・保護・給仕などの目的で、ある人にいつもついている人。つきそ い。つきびと」とあるではないか!えっ?なんだって!「付け人」と「付き人」は同じ事なの?どっちでもいいって事なの?そ、そんな馬鹿な・・・。正直、私 はうろたえた。いやいや、この辞書が間違っているかも知れない。うちの師匠は絶対間違っていないはずだ。そうだ、パソコンを買った時にオマケでついてきた 広辞苑のCDロム版があった。あれで調べてみよう。こんなK川書店の「新国語辞典」なんかアテにならない。信頼できるのはやっぱり広辞苑だ、と思い直して おもむろにCDロムを挿入した。「つけびと」と入力しクリックすると

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つけ‐びと【付け人】

〓側近につけておく人。つきそい人。つきびと。

〓付家老(ツケガロウ)に同じ。

〓侠客などを応援する浪人。

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と出てきた。おいっ、なんてこったい。広辞苑でも「付け人」と「付き人」は同じなの?それじゃ死んだ師匠が浮かばれないじゃないか。もはや私は半泣きである。気を取り直して「つきびと」と入力してみる。

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つき‐びと【付人】

付きそって世話をする人。つきそい。つけびと。人、春色辰巳園「また—のあふりから」

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なんじゃ、こりゃっ!気分は松田優作だ。ちなみに松田優作と私は同郷である。関係ないけど。

結局「付け人」と「付き人」は、ほぼ同義であるらしいと、結論づけるしかないのだろうか。私の亡き師匠のご高説は、全くの間違いだったのか。

しいて言うならば、用心棒、ボディーガードという意味合いは「付け人」にしかないらしい。それは正しいようだ。でも、身の回りの世話をやく人の事を「付け人」と言っても間違いではないらしい。なんて悲しい結末を迎えた事か。

日本語の間違いを鋭く指摘するつもりが、とんだ赤っ恥をかくところだった。しかし、今回はあえてこの原稿を生かそう。この拙文を読んだ高名な国語学者の先生から
「柳朝師匠のおっしゃってた事は正しいんですよ」と、広辞苑が間違っていると証明してもらえるかもしれないから。誰かそんな人、現れないかしら・・・。なんとか師匠の名誉を回復したい。

次回はそんな願いを込めて「ごねる」について、鋭く指弾のメスを入れる。これも師匠から教わった学説である。乞う、ご期待

春風亭正朝

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